文脈の事故

オール・ノンフィクション

お前

その日の夜、僕は青葉台の横であいつに会った。あいつは44歳の独身男。黒い車に乗ってた。
車を開ける。それまで嗅いだことのない臭いがする。慣れない。
そして、あいつはゲイなのだという事実が邪魔をする。まるで異物に触れるかのような感覚で、ゲイのあいつに話しかける。まるで異世界の住人のように。

長津田のガストで話した。一つ気になった。それを訊いた。
「何か、人生のゴールってありますか?」
訊いてはいけない質問かもしれなかった。失礼かもしれなかった。でも異性とかれこれ44年間一度もやったことがないあいつには、結婚や出産を越えた、人生の目標があるのか気になってしまった。
すると、確かにね、と言ったあとに、「今を楽しめればいいかなと今は思う」と言われた。悲しくなった。確かにそれは一つの生き方だ。
でもおれはそうはなりたくないと心底思った。家庭を持ちたいし、子どもの成長を見届けたいし、守りたいとも思う。

家に着く。長津田2LDKのアパート。もう少し狭くてもよかったけど、安かったからとあいつは言う。
それはとてつもない量の寂しさが漂う空間だった。
あいつは結婚する幸せを知らない。異性を好きになる幸せをしらない。同性と恋をする幸せは知ってるんだけども

ソファに横になる。あいつが目前に迫ってくる。これまで何度も見た光景だった。
おれは同性だと一重の人が好きだ。以前町田で会った人も一重だった。そいつとあいつは似てた。思い出してきた。ベロチューを執拗に求められるけども、おれはベロチューはそんな好きじゃない。同性同士の接吻は汚い、不潔だというイメージが頭から離れない。だから何度かベロチューを拒否したら、相手も徐々にわかってくれたみたいだった。

これは違う、と思った。
そして徐々に後輩の顔が浮かんできた。あいつは元気だったな。あいつと付き合ったら、幸せになれるんじゃないか?とか。

一緒に寝たけども、一晩寝て起きたらもう答えはわかった。そして湘南台に帰り、あのアプリは消した。