文脈の事故

オール・ノンフィクション

小村君は、高校を退学しなさい

世の中には、二種類の人間がいる。部活の顧問に退学を勧められる人間と、そうでない温和な人間。連綿と続いていた穏やかな日常は、その日を境に不条理の塊と化してしまった。氷のように凝固した感情にはもはや何も届かない。届けてほしくない。全てを拒否してしまいたい。

思えばその日から、不条理さは埃のようにゆっくりと、しかし確実に積もっていった。僕は同性が気になるんです。僕は周りがセックスしてたなんて知らなかったんです。僕は美術室くらいしか居心地の良い場所が無かったんです。

会話が続かないのは今も悩みで、でも誰かにわかってほしかったから、小村は屋上手前に「○○子の部屋」みたいなインスタレーション風の空間を作っていた。吹奏楽部だったから、いらなくなった楽譜の裏紙に文字を置いたり、空いたペットボトルを意味ありげに配置したり。文脈などなくて、そのときの小村にとって、現存しうるインスタレーションとしての才覚さえ感じられれば、なんでもよかったんです。なんでもいいんです。なんだっていいし、大抵のことはどうでもいいし、塾の授業の前にマックでポテトとシャカチキさえ食べられればいいんです。